一休

 「有漏路より無漏路に帰る一休み
   雨ふらばふれ風ふかばふけ」

 一休の伝記を、息子の音読と共にたどる。争いの絶えない下克上の世に生まれ、人々の幸せを願い自然を愛する一休の様々なエピソードが綴られていた。あるときはとんちで上下隔てなく打ち負かし、ある時はとぼけた問答をし、またあるときは市井の人々と共に過ごす。それら一話一話が、やや苦みを帯びた清涼剤のような不思議な味があった。
 自然体で生き、「真実一路」をあゆむ一休を描く筆者は、武者小路実篤。平明な文体で深みのある一休の言行が語られる。この伝記に息子と向き合った時は、凡百の書を読むよりはるかに貴重なひとときであった。

一休―とんち小僧から名僧に
武者小路 実篤
4061475061

タモリ

 タモリがまだ無名の時期に、赤塚不二夫、山下洋輔、筒井康隆らの前で披露し、彼らを感激させ、この人を福岡に帰してはいけないと思わせた話芸。その「密室芸」の魅力がたっぷりつまったアルバムが、1977年にレコードとして発売され、1995年にCD化された「タモリ」である。「ハナモゲラ相撲中継」「四カ国語麻雀」「世界の短波放送」など、笑激的な話芸が繰り広げられる貴重なアルバムである。
 今ではその手法は多くの人々が模倣し、インパクトは強くないかもしれないが、このCDに収められたタモリの話芸は、常人が出来そうで決して到達できない、突き抜けたばかばかしさと、とてつもないセンスがある。

タモリ
タモリ
B00005GI5O

城山三郎氏を悼んで

 作家、城山三郎氏が3月22日死去した。79歳だった。
 経済の側面から日本人の姿を浮き彫りにした小説からは、どれも懸命に生きる人々の気概が伝わり、多くの作品から感銘を受けた。
 「雄気堂々」では、幕末から明治にかけて激動の時代に活躍をした渋沢栄一の生き様が、徳川慶喜、大隈重信らとの交流と共に描かれ実に興味深く読めた。わきかえる時代の描写、スケールの大きさな人物像に圧倒された。
 田中正造の晩年と、公害の被害者の生き様を描いた「辛酸」は、苦境の中でも信念を貫く人々の姿が印象に残る重みのある作品であった。
 「もう、きみには頼まない」は、高度経済成長期に経団連会長をつとめた石坂泰三を描いた小説。文化の薫りを持ち、グローバルな視点で経済の舵取りをし、気骨と懐の深さをもった財界人の生涯に刺激を受けた。
 「黄金の日日」では、信長・秀吉と経済を基に対峙する堺の人々の誇りと気概にふれ、時代小説の新たな魅力を感じさせられた。
 「百戦百勝」は、相場の世界に生きる男をユーモアに溢れた筆致でつづり、痛快無比な作品だった。
 「落日燃ゆ」は、最も大事にしたい小説の一つ。戦争回避に努めながらも、東京裁判で絞首刑を宣告され、一切の弁明をしかなった元総理、外相、広田弘毅。その生き様には頭を垂れる思いであった。
 城山三郎氏の描く、大局を見据え懐深く存在感のある人物像に強く惹かれるのは、日本が小さく固まらず、より良い方向へ導いてくれるリーダーを渇望しているためかもしれない。
 凛然とした文体は、時に自然と姿勢を正さずにはおられないほどの静かな迫力があった。組織や社会の複雑さが対象であるにもかかわらず、読後は常に快さが残った。根底に人に対する暖かい眼差しがあるためであろう。
 ご冥福をお祈りいたします。
 

爆笑問題のハッピー・タイム歳時記

 爆笑問題初のギャグCD「ハッピー・タイム歳時記」。太田光が作曲した冒頭のハリウッド映画風の大げさな曲からして力が入っている。
 月毎の情景を言霊にして弄ぶナンセンス&ハイセンスパロディの奔流。太田光の文学志向が生きている。

爆笑問題のハッピータイム歳時記
爆笑問題 キリングセンス GO・JO
B00005I5PB

キュリー夫人

 息子がキュリー夫人の伝記を読み終える。いままでに同じシリーズで十冊の伝記を音読させたが、文章の豊かさという点で最も印象に残る本であった。
 ロシアの圧政に苦しむポーランドで過ごした少女時代、卒業後に遊び暮らした夢のような1年間、貧しく自由の少ない家庭教師として鬱々とする日々、パリへの旅立ちと最良のパートナー、ピエールとの出会い。それらが、ふくらみのある文体で実に丁寧に綴られ、小説のように楽しめた。
 家事や育児をこなしながらも、実験や物理化学と向き合い、ひたすら真理を追い求める毎日。苦難の末に、放射性元素ポロニウム、ラジウムを発見する。この20世紀科学のあけぼのを告げる偉業が、実直でひたむきな生活から生まれたことに清々しい感動を覚えた。
 美しいブルターニュでの描写でさりげなく幕を閉じ、余韻が残る。伝記の中でも、ひときわ文学的香気を放つ名著。

キュリー夫人―輝く二つのノーベル賞
ドーリー
4061475053

浦沢直樹

 NHKで放映された「プロフェッショナル 仕事の流儀」の浦沢直樹を扱った回を見る。「YAWARA!」「MASTERキートン」「20世紀少年」などのヒット作を生み出す漫画家。
 「PLUTO」を描くシーンで、男が一歩踏み出す表現をどうするか悩む浦沢の姿が印象に残った。浦沢の漫画は、ひとつひとつの場面に、人間の単純でない面を浮かび上がらせる。
 漫画の原作者であり、編集者の長崎尚志は、浦沢のことを「創作の神様の前に素直な人」と語る。
 「プロフェッショナルとは」という問いに対する浦沢の答えは、「締切りのある人。その締切りまでに、最善の努力をする人じゃないですか。」

プロフェッショナル 仕事の流儀 漫画家・浦沢直樹

カップヌードル

 即席麺「チキンラーメン」を発明した日清食品の創業者、安藤百福氏が1月5日午後に亡くなった。96歳だった。1971年に安藤社長自ら発案した「カップヌードル」は、日本の食文化に大きな影響を与えた。
 コミック版プロジェクトX「82億食の奇跡」は、カップヌードルの開発をドラマチックに描いている。作画・脚本は加藤唯史。天才料理人を主人公とした「ザ・シェフ」の作者であり、食を追求する人々が熱く描写されている。
 ラーメンを口にする場面があまりにうまそうだったので、今宵の晩飯は安藤氏を偲びつつカップヌードルを食した。

コミック版 プロジェクトX挑戦者たち―82億食の奇跡
NHKプロジェクトX制作班
4872878426

上杉鷹山

 「たとえ財政再建のための改革であっても、その対象となる人々への愛といたわりを欠けば、その改革は決して成功しない」

 上杉治憲(鷹山)が17歳で藩主となった米沢藩は、商人も見限り誰も金を貸してくれないほど財政が逼迫していた。格式を重んじる上杉家では膨大な出費がかさみ、幾世代にも渡った借金は膨大な額にのぼった。
 藩主治憲は改革案をまとめ、米沢領に入るが、昔からの重臣の抵抗に会い、度重なる妨害工作を受ける。

 童門冬二の小説「上杉鷹山」は、改革派と守旧派との対立を軸に、鷹山が危機的な状況にあった米沢藩の改革を成し遂げるまでを説得力のある文章で描いている。
 アメリカ大統領ジョン・F・ケネディが、最も尊敬する日本人としてあげた上杉鷹山。質素倹約を藩士や領民に強いるも、率先垂範を行い、人々が希望の灯をともし続ける影響力。複眼的で柔軟な思考を持ち、甘言に終始することなく、時には苛烈な処断を行う気構えを持っていた。その政策は、殖産興業と将来への備えを的確に行うことにより、天明の大飢饉においても米沢領内でひとりの餓死者も出さなかったことに示されるように、根底には領民への慈しみがあった。
 年頭にあたり、自らの内に基軸を持つためにも、鷹山の生き様から受けた刺激を大事にしたい。

全一冊 小説 上杉鷹山
童門 冬二
4087485463

坂本竜馬

 新しい日本の夜明けを目指して東奔西走した土佐の快男児、坂本竜馬。

 「福沢諭吉」の音読が終わった時、次は誰の伝記を読みたいと息子に聞くと、「坂本竜馬」と答えた。少し難しいかと思ったが、音読をさせてみた。
 幕末の複雑な情勢、多彩な人物、様々な事件など、この時代は記述すべきことがたくさんある。そのため、竜馬に関する部分が簡潔にならざるを得ないため、聴いていて、時代の流れで竜馬があれよあれよと転変していく感じを受けた。気がつくと、あっという間に近江屋での襲撃の場面になっていた。まさに、時代を駆け抜けたという印象が残った。

坂本竜馬―明治維新の原動力
砂田 弘
4061475584

おーい!竜馬 少年篇

 図書館に「おーい!竜馬」のビデオがあったので、丁度、息子が坂本竜馬の伝記を読んでいることもあり、借りてきて家族で視聴した。NHK総合テレビで1992年から放映されたアニメーションである。
 第1話から第13話の「少年篇」を見るが、まず、竜馬の過ごした家や土佐の町並が丁寧に描かれており感心した。
 泣き虫で弱虫だった竜馬が様々な事件に直面し、次第に成長していくストーリーは興味深く、子どもたちも真剣に見ていた。それら事件のいくつかは、土佐の身分制度「上士と郷士」による差別を基軸としている。フィクションの部分も多いであろうが、素直に感情移入できる物語であった。

おーい!竜馬・少年篇〔1〕
笹川ひろし 高山みなみ 小林優子
B00005FU8I

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