福沢諭吉

 「おもえば、福沢諭吉こそ、民主主義の光をかかげた、明治の大きなともしびでありました。」

 息子の音読で、いつも感心するのは、伝記を書く人の文章のうまさだ。子ども向けであるから、できるだけやさしい言葉でわかりやすく書くことはもちろん、興味を惹きつつもその人のテーマをくっきりと浮き上がらせる内容にしなければならない。
 本書では、勉強嫌い、いたずら好きだった諭吉の子ども時代から始め、好奇心の豊かさからおこる様々なエピソードを盛り込み、物事の本質をすくい取っていく諭吉の姿を興味深く描いている。
 音読を聴いて心地よいリズムを感じた。心を動かす点で、「ペンは剣よりも強し」を体現した書。

福沢諭吉―ペンは剣よりも強し
高山 毅
406147510X

上田城址

Ueda01  秋の信州、上田を訪ねる。上田城址公園で1日過ごす。上田城は、真田昌幸が1583年に築いた戦国期の平城。上田城は徳川の大軍を2度にわたって撃退したことでも知られる。堀や石垣、櫓門、西櫓など数々の建造物で往時を偲ぶことができる。

Ueda02  城跡の他、公園の一角には数々の遊具があり、子どもたちを遊ばせることができる。クジャクなどの動物も飼育されている。太郎山を背景に、石垣が歴史を伝え、静かな時の流れを感じる場所である。

Ueda04  公園内の上田市立博物館には、真田氏の資料などが展示されている。また、上田市出身の山極勝三郎博士の展示がなされていた。山極博士は、ペスト、脚気、癌などの研究をした病理学者。ウサギの耳にコールタールを塗布し続けることにより、世界で初めて人工的な癌の発生実験に成功した。この実績によって日本人初のノーベル賞候補に推薦された。

Ueda05  隣接して、山本鼎記念館が建てられている。山本鼎は、美術の創作のみならず、「自由画教育運動」、「農民美術教育運動」などの社会運動で業績がある。
 山本の作品である、与謝野晶子や島崎藤村の本の装丁も展示されている。簡素な中に清々しい味わいがあり、印象に残った。

Ueda06  秋の柔らかい日差しの中、歴史と自然にふれ、ゆったりとした時を過ごした。

武田信玄

 「人は城 人は石垣 人は堀
  なさけは味方 あだは敵なり」

 野口英世の伝記の音読が終わった息子に、次は何を読みたいと聞いたら、「武田信玄」と答えた。同じシリーズの「豊臣秀吉」を読んで、戦国武将に興味を持ったようだ。
 信玄は、戦のみにあけくれる父親を追放し、治水や産業の育成にも意を用い、部下の言を用いて人望はことに厚かった。その家法「甲州法度」は、徳川の治世にも引き継がれた。
 優れた経営者であり、指導者であった信玄の偉大さを改めて感じさせてくれた。 

武田信玄―風林火山の旗風
木暮 正夫
4061475614

飢餓海峡

 青函連絡船の転覆事故を背景にした強盗殺人犯とそれを追う刑事の姿を通し、戦後日本を描いた内田吐夢監督による映画「飢餓海峡」。16ミリフィルムで撮影され、独特の映像表現は見るものの心理に訴える。
 三國連太郎、伴淳三郎、左幸子の味わい深い演技は、重厚なストーリーと共に印象に残る。人間の業を描いた名作。

飢餓海峡 [DVD]

墜落遺体

 1985年8月12日、御巣鷹山に日航機が墜落し、520名の命が奪われた事故から21年が経つ。「墜落遺体」は、当時、遺体の身元確認作業の責任者であった著者による現場の記録である。
 遺体の頭部の中から、他の人の目玉が発見されるなど、航空機事故の凄惨さが如実に伝わってくる。遺体が運びこまれる藤岡市民体育館は、気温が40度に上がり、死体の悪臭と線香の煙がたちこめ、時おり遺族の号泣や叫喚が響き渡る。
 そんな中で、自ら病を患いながら、過労で寿命を縮めてまで遺体確認作業を全うする医師。遺族のショックをできるだけ和らげるよう、頭や胴だけでなく内臓までも丹念に洗い、遺体縫合、包帯巻を粛々と行う看護婦たち。自らの身内の死に目にも会わず、遺族との対応を優先する警察官。苛酷な現場で懸命に取り組む人々に、ひたすら頭が下がる思いであった。
 そこに描かれているのは、職務を越えて、人としてなすべきことを憑かれたように行うことで、救いを求める姿であるようにも思えた。

墜落遺体 御巣鷹山の日航機123便 (講談社+α文庫)

海の祭礼

 北海道、天北の地から海を望むとき、いつもその姿を誇示している利尻島には、稚内からフェリーで1時間半ほどで行ける。船が島に近づくにつれ、山は視界に大きく広がってくる。標高1721mであり、周囲約60kmの島全体が山の一部であるといえる。

 数年前、利尻島に行った時のこと。フェリーが着く港のそばに何件か食堂があったが、ガイドブックにも載っていないようなごく大衆的な食堂にはいった。中で子供が水鉄砲で遊んでいるような、きどらない店であった。ウニ丼を注文してしばらく待つと、明るい黄色を帯びたウニが溢れるばかりに載ったどんぶりが出てきた。普段目にする固まったウニとは違い、溶けて流れ出しそうなやわらかさである。口にすると、甘みを帯びた豊かな味。海無し県に住んでいる身にとって、それは日常触れることの出来ない味覚であり、感激した。その朝に獲れたウニを、その場でからをむいて出すと店の人が話していた。確かに食事する場所から見える調理場には、黒いトゲに覆われた殻がいくつか転がっていた。
 流通するウニは形をくずさないためミョウバンで固めるので、苦みが混じり風味が数段落ちる。利尻のウニは、混じりっ気なしで、しかも利尻昆布を食べて育ったウニであり、産地で食べなければ本当の味はわからないだろう。

 旅館の階段に「海の祭礼」という本が展示してあった。吉村昭の著作で、江戸時代、日本に憧れ単身利尻島に上陸したラナルド・マクドナルドをめぐる話である。彼と日本人通訳との交流を軸にして、幕末の歴史を独特な視点から描き興味深かった。
 北海道へは旅するごとに深い情緒と、様々な刺激が与えられる。情・知共に得るところの多い尽きせぬ魅力をもった土地である。

海の祭礼
吉村 昭
4167169428

天北原野

 日本最北端の都市、稚内。ここへ向かう海岸べりに、真っ直ぐな道がある。右手は広大な原野であり、遠くに起伏が見える。その広さゆえになだらかな丘に見えるが、大雪山系につながる存外高い地である。左手には深い碧色をたたえたオホーツク海が広がり、なかほどに利尻富士が優美な姿を現している。道は地平線に向かって無限に伸びてゆくかのようであり、大いなる自然を感じる。このあたり一帯を含む北海道の最北部は、天北地方ともよばれる。

 三浦綾子の小説「天北原野」は、北海道と樺太を舞台に、運命に翻弄される人々の姿を描いた作品で、北国の風物の描写と巧みな筋運びが融和した珠玉の名作。

天北原野 (上巻)
三浦 綾子
4101162123
天北原野 (下巻)
三浦 綾子
4101162131

豊臣秀吉

 息子が、「豊臣秀吉」を読み終える。仕事から帰って、息子の音読を聴くのが毎日の楽しみのひとつ。
 この秀吉の伝記は、少年時代から始まり、前半が本能寺の変、山崎の合戦を経て天下を統一するまでが書かれているが、実に展開が速い。それに比べて、後半は天下統一後がじっくりと描かれ、趣きがあった。

豊臣秀吉―ぞうりとりから戦国の英雄に
岡田 章雄
4061475126

坂の上の雲

 明治時代の日本人の気質を、日露戦争を中心に膨大な事例で描いた司馬遼太郎の「坂の上の雲」。この無謀ともいえる戦いを通じて、いかに明治が高揚した、精神的に豊かな時代であったかを感じとることができる。読み終えた後には、真に偉大なものを見てきたような、圧倒的な感動を抱いた。
 司馬遼太郎は、正岡子規が好きであると書いているが、氏の作品の徹底した写実を通して描いていく手法に子規との共通点を感じる。  

 2年前に亡くなった野沢尚には、NHKから2006年に放送予定だったスペシャル大河ドラマ「坂の上の雲」の脚本執筆が依頼されていた。野沢氏が取材に時間がかかっているとして延期の申し入れがあり、NHK側もこれを了承し、2007年以降に放送が延期される旨の発表がなされていた。野沢氏は既に同作の全15回分の初稿を既に書き上げていたことも明らかにされている。  
 NHKには、是非「坂の上の雲」を魅力的な形で映像化してほしいと思う。

坂の上の雲〈1〉
司馬 遼太郎
4167105764

朱なる十字架

 細川忠興に嫁いだが、明智光秀の娘として逆賊の汚名を着せられ、数奇な運命をたどる細川ガラシアの生涯を描いた永井路子の歴史小説。

朱なる十字架
永井 路子
4167200422

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