ONE PIECE 45

 尾田栄一郎の描く大河漫画「ワンピース」の45巻は、10巻に及んだCP9編が終わり、次の冒険への幕間つなぎ的な内容。しかし、作者はこのような間奏曲的な話を描くのが、実にうまい。たいへんいい雰囲気で、膨大なキャラクターそれぞれが息づき、成長が感じられる。大きなストーリーのうねりが一段落し、肩の力が少し抜けたことで、かえって作品の良さがごく自然に醸されていた。
 それぞれの登場人物が夢を持ち明るく前向きに進む、今の少年漫画の中では貴重な作品。

ONE PIECE 巻45 (45)
尾田 栄一郎
4088743148

リンカーン

 アメリカ合衆国大統領、エブラハム・リンカーンの伝記を息子が読み終える。ケンタッキー州の荒れ野の丸太小屋に生まれ、わずかな教育しか受けなかったが、持ち前の勤勉さと向学心でついに弁護士になる。周囲からの支持を集め、政界に進出するが、落選を何度か経験する。黒人奴隷の解放を掲げ、大統領に就任するが、間もなく南北戦争が勃発する。リンカーンは時機をのがさず、奴隷解放の宣言をする。その波乱の生涯を息子の音読で辿ることは、楽しみの一つであった。
 自由と平等の理念を、奴隷解放という形で具体化するまでの苦難、5年の長きに及ぶ戦争という試練は想像を絶する。その中でも人に対する優しさと国家建設の使命を持ち続けたリンカーンの偉大さは充分感じ取ることができた。

リンカーン―どれい解放の父
松岡 洋子
4061475150

トコトン書きこみドリル 小学4年の漢字

 小学4年生で習う200の漢字が、25のテーマで8字づつまとめられた書きこみ式ドリル。例えば、「給食室」というテーマで、「給食の準備、パン粉、塩、食器、野菜、材料、ご飯をたく」という言葉がイラストに添えられており、下に「給・菜・粉・塩・材・料・器・飯」の8文字を練習する枠が設けられている。その左ページには、それぞれの漢字の読み方、意味、言葉、筆順が載せられている。続く2ページは、それらの漢字に関するドリルとなっている。
 このシリーズは、仲間の漢字を集めているので覚えやすい。また、ページ数も多くないので、各学年で習う漢字を短期間で一通りふれることができる。楽しく効率的な漢字ドリル。 

トコトン書きこみドリル小学4年の漢字
文英堂編集部
4578130894

あと10ぷんでねるじかん

 いやー、楽しい絵本だ。「あと10分でねるじかん!」と親に言われた子どもの周りに、ハムスターがぞくぞくと集合する。その展開は、スリリングですらある。ハムスター一匹一匹にも個性があり、ディテールが楽しい。親子での会話がはずむ絵本。

あと10ぷんでねるじかん
ペギー ラスマン Peggy Rathmann ひがし はるみ
4198610754

小学 漢字の字典

 小学1年生から6年生までに習う漢字が、学年ごとにまとめられた字典。これ一冊で、漢字の書き順、意味、注意すべき点や間違いやすい点、使い方などが網羅されている。カラーのイラストも添えられ、親しみやすい。新しく漢字を習う度にこの本で確認させることで、辞書を引く練習にもなる。
 保育園の卒園記念で贈られた本だが、たいへん価値ある一冊だと思った。

小学 漢字の字典
栗岩 英雄
4873840155

ぼくはだれもいない世界の果てで

 柳田邦男氏の講演会で、翻訳した氏自身から解説があった絵本のひとつ「ぼくは だれもいない 世界の果てで」を次男と音読をする。文の行数が少なめのページは次男が、長めの部分は親がと交互に読み進んだ。
 世界の果てで暮らす少年のまわりにあった自然が、大人によって徐々に失われていく様がディテール豊かに描かれている。テレビ、ゲーム機、携帯電話、インターネットなどに取り囲まれている現代、子どもたちが静かに自分を見つめる時を持つことの大切さに気づかせてくれる。
 ケビン・ホークスの雄大な自然の絵がことにすばらしい。

ぼくはだれもいない世界の果てで
M.T.アンダーソン ケビン・ホークス 柳田 邦男
4097261517

1000の風 1000のチェロ

 絵本「1000の風 1000のチェロ」を、この4月に小学校に入学する次男と一緒に音読をする。終わり近くで涙が込み上げてきて読めなくなったので、最後のところは、次男に読んでもらった。

1000の風 1000のチェロ
いせ ひでこ
4034351209

小説「風林火山」

 井上靖の小説「風林火山」は、武田信玄に仕えた軍師山本勘助を描く小説。いやあ、実に面白い。文章に勢いがある。
 NHK大河ドラマ「風林火山」の原作である。大河ドラマでは第11話までを大森寿美男がオリジナルのストーリーを作り、第12話から小説の流れに乗る。原作を読み、脚本家を始めとしたスタッフの意欲を刺激するのがわかる。確かに映像化したいと思わせる、華麗さと力強さ、人々の機微に満ちた息づかいが格調高い文の中にあった。

風林火山
井上 靖
4101063079

総会屋錦城

「推測はできても理解できそうにない撓みのない一徹さであった」

 城山三郎氏が昭和33年下半期に直木賞を受賞した「総会屋錦城」。老練な総会屋の最期の戦いとその家族を描いている。
 新潮文庫の「総会屋錦城」には、表題作の他に、戦後間もない日本の社会を鮮やかに切り取った6編の作品が収められている。

総会屋錦城
城山 三郎
4101133018

城山三郎氏を悼んで

 作家、城山三郎氏が3月22日死去した。79歳だった。
 経済の側面から日本人の姿を浮き彫りにした小説からは、どれも懸命に生きる人々の気概が伝わり、多くの作品から感銘を受けた。
 「雄気堂々」では、幕末から明治にかけて激動の時代に活躍をした渋沢栄一の生き様が、徳川慶喜、大隈重信らとの交流と共に描かれ実に興味深く読めた。わきかえる時代の描写、スケールの大きさな人物像に圧倒された。
 田中正造の晩年と、公害の被害者の生き様を描いた「辛酸」は、苦境の中でも信念を貫く人々の姿が印象に残る重みのある作品であった。
 「もう、きみには頼まない」は、高度経済成長期に経団連会長をつとめた石坂泰三を描いた小説。文化の薫りを持ち、グローバルな視点で経済の舵取りをし、気骨と懐の深さをもった財界人の生涯に刺激を受けた。
 「黄金の日日」では、信長・秀吉と経済を基に対峙する堺の人々の誇りと気概にふれ、時代小説の新たな魅力を感じさせられた。
 「百戦百勝」は、相場の世界に生きる男をユーモアに溢れた筆致でつづり、痛快無比な作品だった。
 「落日燃ゆ」は、最も大事にしたい小説の一つ。戦争回避に努めながらも、東京裁判で絞首刑を宣告され、一切の弁明をしかなった元総理、外相、広田弘毅。その生き様には頭を垂れる思いであった。
 城山三郎氏の描く、大局を見据え懐深く存在感のある人物像に強く惹かれるのは、日本が小さく固まらず、より良い方向へ導いてくれるリーダーを渇望しているためかもしれない。
 凛然とした文体は、時に自然と姿勢を正さずにはおられないほどの静かな迫力があった。組織や社会の複雑さが対象であるにもかかわらず、読後は常に快さが残った。根底に人に対する暖かい眼差しがあるためであろう。
 ご冥福をお祈りいたします。
 

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